浪費

 仕事が終わって制服からスーツに着替えていると、俺のしているネクタイを見て柳田さん(仮名)が「若いのにずいぶん地味なネクタイしてるんだねぇ」と言った。余計なお世話である。こちらはネクタイに何のステイタスも求めておらず、単なる通勤着の一部として身に付けているに過ぎないのだ。

 さて、そう言う柳田さんのしめているネクタイを見るとやけに派手なのである。ギラギラしているわけではないが細かい模様が入っていて、なるほど生地も良さそうだ。ネクタイの裏側に刺繍してある何とかいうブランドのロゴマークを見せてくれた。なるほど聞き覚えのあるブランドだ。一本二万円くらいするんだって。で、そんなブランドもののネクタイを百本くらい持っているんだと。スーツもフルオーダーで作っているから結構金かかってんだよ、だって。へえそうなんすか、ちなみに今着てらっしゃるそのスーツだと幾らくらいするんですかとたずねてみると、二十(万円)くらい、と実にさり気ない風を装って彼は俺に言うのだった。その手のスーツももちろん、何十着もあるから、まあちょっとした一財産だよね、こういう格好で飲み屋に行くとさ、ご職業はって聞かれた時に普通の会社員だって言ってもまず信じてもらえないね、うそでしょ普通のサラリーマンの人はそんな(お金のかかった)格好なんてしませんものってことでね、たいがい不動産屋さんかなんかの社長とかに見られちゃう。あとはヤクザとかね、昔パンチパーマかけてたときはまずヤクザと思われてたもんだよ…

 鼻の穴まで自慢げにふくらませて語る柳田さんの話に、なるほど浪費とはこういうことをいうのかと良いオベンキョしたような気にもなった。しかしあまり長く聞いているのもシンドそうな種類のお話なので、さっさと着替えを済ませて俺は帰路につくのであった。

<次回は「ひ」または「うひ」で始まるタイトルですよ>
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# by edoya-ex | 2008-05-24 19:13 | シリトリヨタバナシ

ゆうたろう

 
街角。一人の女が子連れの母親に話しかける。

女「まあかわいらしいこと、おいくつですか?」
母「あら、私なんてもう可愛いと言われる年ごろなどとうに過ぎてしまっておりますのよ」
女「あ、いえ、その、お連れのお子さんのことを…」
母「そうですわよね。いやだわあたしったら。ええ、この子はもうじき四歳になるんです」
女「可愛い盛りですねえ」
母「そうは言いましても、年をとってからの子供ですから私なんかもう盛りも過ぎてしまって…」
女「あの、その、お子さんの可愛い盛り…」
母「あらまあそうですわね、すみませんねえ、年のせいかしらついつい自分のことばかり考えてしまいますわ。そうですそうです、この子は今が可愛い盛り」
女「まるで女の子のようなお顔立ちで」
母「いやですわ、こんなおばさんに『女の子のような』なんて。ふふふ」
女「いえ、その、お子さんが」
母「……わかっていますっ。この子が、女の子のように可愛いと、仰るの、ですよね?」
女「はいっ、そう、です」
母「…」
女「お名前は、なんとおっしゃるんですか?」
母「まさこ」
女「?」
母「…は私の名です。この子は、『ゆうたろう』というんですよ」
女「いいお名前ですね」
母「父が『まさみつ』という名だったのです。そこから一文字頂いて『まさこ』と…」
女「…」
母「…オホン、『ゆうたろう』の名をお褒め頂いたのですよね。わかります、わかります、わかっていますとも」
女「…」
母「…」
女「…『ゆう』の字は『勇ましい』の『勇』ですか?」
母「『オス』の『雄』」
女「オスの…」
母「男なら雄々しく生きよ雄太郎!」
女「!(ビックリ)」
母「私の娘時分からの座右の銘です」
女「はあ…」
子「…おかあさん…」
母「なんですか」
子「おしっこ」
母「お母さんはまだおしっこなんてしたくありませんよ。さっきのお店で済ましてきましたからね」
子「…」
女「あの、お母さまではなくてゆうたろうくんがおしっこに行きたいんではないでしょうか?」
母「あらまあ、そうなの?ゆうたろう?」
子「…(うなづく)」
女「あらあら、おばちゃんたちが長話していたせいね、ごめんねゆうちゃん」
母「初対面の年上の女性をつかまえて『おばちゃん』とは何事ですか!」
女「いえ、あの、ゆうたろうくんから見た私自身をおばちゃんと言っただけなのですが…」
母「はっ……、そ、そうですわね、そうですわね。さ、ゆうたろう、お手洗い行きますよ。それじゃこれで、失礼いたします。おほほほ」

(実話ではない)


<次回は「う」または「ろう」で始まるタイトルですよ>
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# by edoya-ex | 2008-02-11 23:11 | シリトリヨタバナシ

だるさの共有

 数学的な話。正の数どうしをかけ合わせるとその答えは正の数(+)となる。正の数に負の数をかけ合わせると答えは負の数(−)になる。ここまでは良い。負の数どうしをかけ合わせると、その答えは正の数になるのだ。−2× −2=4なのだ。なんだか納得がいかない。納得のいかぬまま、それはそういうものだと妥協して我々は皆大人になってきたのだ。

 自分が元気な時に元気な友人と会って話がはずむとお互いもっと元気になったりする。正の数どうしだからか。何となくだるいときに、やたら元気な友人と会う。こちらはその友人の元気さに辟易し、向こうは向こうでこちらの元気のなさにウンザリし、両者トーンダウン。これが正の数×負の数か。

 なんかだるいなあと感じている時に、相手もまた「実は俺もだるいんだよな」なんて言って、お互いがいかにだるいかとか、そのだるさのもとになった人物を二人してけなしていたりと、「だるさの共有」を確かめ合うことでいつのまにやらだるさもとれて双方気分爽快、なんてこともある。負の数どうしのかけ算とはこういうことをいうのだろうか。

 ただ単なる机上の空論、辻褄合わせの理論だとばかり思っていた四則演算の法則も実は実際の人生に適用され得るものであると理解した瞬間、あなたの脳細胞はいくらか活性化するのである。

 たぶん。


<次回は「う」または「ゆう」で始まるタイトルですよ>
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# by edoya-ex | 2007-09-16 21:24 | シリトリヨタバナシ

サンダル

君がサンダルを選んだのではなくサンダルが君を選んだのだ
サンダルが外へ出たいとき君に心で呼びかけるのだ

サンダルの好物は


雨水
ホコリ
セメント
コンクリート

などなど

たとえば夜中
君はちょっとコンビニまで買い物に行こうかと思い立つ
実はそれはサンダルが君に呼びかけた結果なのだ
コンビニまでサンダルを履いていった君は
立ち読みのついでに
ビールなんかを買って帰ってしまう

君の酒量を決めているのはサンダルなのだ 


<次回は「る」または「だる」で始まるタイトルですよ>
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# by edoya-ex | 2007-06-28 19:50 | シリトリヨタバナシ

ティガちゃんさん

(タイトル付がやや強引だが、このブログのルール上しょうがないのだ)

e0089712_1027579.jpg で、またラジオネームとかハンドルネーム(以下、面倒なのでどちらも「HN」と記す)とかのことなのだがね、たとえばその「ティガちゃん」とか言うHNがありますね。あるいは「○○さん」とか。「ちゃん」だの「さん」だのの愛称やら敬称が既に入っているもの。そういうHNを名乗る事に文句を付けようというのではない。そういうつもりはないのだが、ちょっと困ることもあるよ、ということを知っておいていただきたいのだ。

 たとえばその「ティガちゃん」が、その仲間うちではけっこう年長者の場合、若年層からは「ティガちゃんさん」なんて呼ばれる。まあそうだよな、「ティガちゃん」がひとつのHNなんだから、それに敬称をつけようとするなら「ティガちゃんさん」だよな。と、納得するようなしないような結論が出てしまいそうだが本人はそのあたりどー思っているのか。「年上だけど気軽に『ちゃん』づけで呼んでね」ってことなのか。そうなのかな。もしそうなら、その「年にはこだわらないんだよ、俺って心の広いオープンマインドなナイスガイだから」みたいな姿勢が却って周囲に余計な気を遣わせているかもしれないことを少しは考えてみたほうがいい。

 そういうHN自体や、そう名乗る人自身を非難するつもりは全くない。でも俺の個人的な言語感覚からすると、「ティガちゃんさん」という呼びかけかたはとっても気持ち悪いので、即刻止めていただきたいというのが偽らざる気持ちなのである。

<次回は「さん」で始まるタイトルですよ>
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*今回の文章は、「ちゃん」にさらに「さん」づけする気持ち悪さがテーマです。実際に「ティガちゃん」というHNのかたがいらっしゃったとしたら申し訳ない。これはあくまで一例として書いたもので、その名をおとしめようとする意図は全くありません。
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# by edoya-ex | 2007-01-08 10:33 | シリトリヨタバナシ