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プラネット・アース

 FAXでもらった図面の一部がちょっと読みづらくて、寸法が今ひとつ不確かなので、佐伯さん(仮名)の携帯に電話をかけてみた。

 佐伯さんはちょっと外を歩いているところだった。図面を描くためのシャーペンの芯を買いに出ていたのだとか。今の時代、ほとんどがCAD図面なのだけれど、佐伯さんは手描き図面にこだわっている。というか、AUTO CADとか覚える気がないらしい。手でできるものを何でパソコンとかにやらせなければならんのだ、とよくぶつぶつ言っている。実際、佐伯さんの描く図面は、そこらのオザナリなCAD図面など比べようもないほど美しいのだ。

 外を歩いているので図面は手元にはないが、だいたい覚えている(さすが)ということなので、数カ所の寸法を聞き、とりあえずそれでやってみて間違いがないかを佐伯さんが会社に戻った頃にもう一度電話で確認する、と、そこまで話した時に突然、電話の声が遠くなった。あれ、電波がおかしいのかなと思っていると佐伯さん、「オーライ、オーライ」とか言っている。車の誘導をしているようだ。一分ぐらい電話をそのままにしていたら佐伯さんが電話口に戻ってきて、ごめんごめんちょっと細い道の曲り角で車がブロック塀にこすりそうになってたからもう見てらんなくって、と言う。僕はつくづく、佐伯さんって親切な人だなと思って、いや、いつもそう思ってるんだけど、今日はあらためてそう思ったんで、そのように佐伯さんに伝えると…

 いや、ほら、別に僕は特別、親切にしてるわけじゃなくてね、たとえば明日、地球が破滅しないとも限らないじゃない?最近物騒だから、今この瞬間にもどこかの国の独裁者が核ミサイルのボタンをちょっと間違って押しちゃうかもしれない。今そうなったら、どの国がどうとかじゃなくって地球全体がたぶん破滅しちゃうでしょう?だからいつ最後がきてもいいようにね、できるだけお互いが気持ちいい記憶を残せるようなふうにしようかなって、そう思ってさ、でまあ結果的に親切って事になってるって、それだけのこと

 なんてちょっと照れくさそうに佐伯さんは言った。そこで僕は、こういう人が一人でも多く増えさえすれば、地球は平和になるのも簡単なのだろうと思ったのだった。

(フィクション)

<次回は「す」または「あす」で始まるタイトルですよ>
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by edoya-ex | 2006-10-29 21:24 | シリトリヨタバナシ