満腹感も悪くない

 
 何年かごと、もしくは年に数回か、周期は決まっていないが時折、新しい本を買いたくなくなってしまう時期がある。 

 満腹感のようなものであろうか、新たな知識を得ることを拒むようなのだ。生きていく上で必要な知識はとりあえず身に付けてしまった、もういい。これはもちろん錯覚なのである。実際は、まだまだ知らねばならぬことは山ほどあるのだ。

 これからまだまだ知らねばならぬことがあることに直面したくない気持ちと、これまでに見知ったことの整理がついていないために(PCに例えるならば)ちょっとフリーズしかかっていると、そんな状態らしい。

 実はここ二た月ほどそんな具合なのだ。新しい本を買う気になれぬ。仕方なく、本棚から以前に読んだ本を引っ張り出して読むことになる。これはこれで温故知新の趣があって悪くない。また本を読む楽しみが蘇ってきた。が、新刊書を読む気は未だ失せている。古本屋で島崎藤村の「破戒」や、太宰治の「走れメロス」など古いもの、昔々に既に読んだものを敢えて買ってくる。一冊105円也。

 読んでみるとこれが凄い。文章のチカラがとんでもなく、圧倒されてしまった。「破戒」の、主人公である丑松(うしまつ)が故郷へ帰る場面の風景描写。景色が目に浮かぶなどというものではない。体内の血流が変わったかと思った。あるいは「走れメロス」。文章が走っている。メロスなど学生の頃に何度も読んだ…筈なのに、今になってまた夢中に読んでしまった。

 たまにおとずれるこの満腹感も、こうして新たな古い発見(?)を呼び寄せるもので、悪くない、悪くない。


<次回は「い」または「ない」で始まるタイトルですよ>
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by edoya-ex | 2006-06-04 17:51 | シリトリヨタバナシ
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